<オバマ政権>AIGで逆風、支持率下降止まらず
【ワシントン及川正也】オバマ米政権発足から20日で2カ月が経過したが、最重要課題と位置付ける経済政策をめぐり逆風にさらされている。公的支援を受ける保険大手AIGの巨額ボーナス問題への批判が噴出、大統領も「責任」を認める事態に。支持率もじりじりと下降を続け、厳しい政権運営を強いられている。
「いくらでも怒ることはできる。しかし、やるべきことは金融システムの大混乱を克服することだ」
オバマ大統領は19日、遊説先のロサンゼルスでの対話集会で聴衆にこう訴えた。国民の怒りが爆発したAIG巨額ボーナス問題から世論の関心をそらし、経済政策論議へと誘導する狙いがあった。
オバマ政権の支持率は下降傾向に歯止めがかからない状態だ。ラスムセン社調査では1月の政権発足直後の65%から19日現在56%まで下落、不支持率は13ポイント増の43%に達した。AIG問題は支持率をさらに押し下げる可能性がある。
オバマ政権の経済政策への懸念も広がる。同社が19日発表した調査では、50%が政府の対策を「やり過ぎ」と回答、「不十分」の40%を上回った。巨額の財政支出や企業救済への反発などが背景にあるとみられる。
さらにAIGボーナス問題では事前に支給を阻止できなかったガイトナー財務長官に対する責任論が噴出。「オバマ大統領の政治的資産を激減させた」(ワシントン・ポスト紙)と厳しい報道が相次ぐ事態となった。
19日に下院で可決されたボーナス課税法案に共和党のベイナー院内総務は「政権の責任から目をそらせるための茶番」と酷評。法案に賛成した多くの共和党議員も金融機関への新たな支援には反対姿勢を強めている。
瑣末事を騒ぎ立てて問題をあやふやにするのは、日本もアメリカも同じと言うことか。
この件についてブルームバーグの突っ込みが面白かったね。
AIG賞与めぐる大騒動の影に潜む単純な真実―Mルイス
3月20日(ブルームバーグ):米政府は昨年9月に、保険大手アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)の救済を開始した。政府がこれまでにつぎ込んだ額は1730億ドル(約16兆 4900億円)で、その大きな部分は住宅ローンや社債のデフォルト(債務不履行)に備える保険契約をAIGから購入していた銀行に流れた。
ドイツ銀行やフランスのソシエテ・ジェネラルなど外国銀行もこの資金を受け取ったし、ゴールドマン・サックス・グループやバンクオブ・アメリカなど米銀も受け取った。
米政府当局者は、元は税金だった資金を受け取った各社についての情報を国民の目から隠そうとしたが、米紙ニューヨーク・タイムズのグレッチェン・モーゲンソン氏をはじめとした報道関係者が、これを阻止したことは大いに褒められてよい。
結局、米納税者はAIGのギャンブルの賭け金を払わされた。賭けに勝ったのはAIGではなくて、ゴールドマンやドイツ銀だった。この信じがたい事実はしかし、政治家たちを全くと言っていいほど動かさなかった。1730億ドルが金融機関に流れたことについては、これで良かったというのが米国の政治家の共通認識のようだ。
ところが、AIGが雇用契約に基づいて1億6500万ドルのボーナスを支給したところ、政界全体が大騒ぎを始めた。大統領はボーナスを取り返すと約束し、上院議員の1人はAIG社員が自殺をすべきだとまで極言した。
批判精神
政治家の批判精神が最後の一滴まで掻き立てられた様相だ。今ワシントンで絶対に誰からも反対されない行動は、AIGのボーナスについてその倫理を問うことだろう。
ニューヨーク・タイムズのアンドルー・ロス・ソーキン氏以外は誰も、次のABCに気付いていないようだ。A)AIGの従業員の大半は、同社が冒したほぼ犯罪と言ってよいリスクとその結果を阻止することにおいて、一般国民と同じくらい無力だった。B)AIGの社員のなかで最も価値のある人々は簡単に、同業他社に転職できる。C)政府が価値のある社員をいじめ続ければ、彼らは当然AIGを去り、AIGには価値の低い人材しか残らなくなる。この結果、AIGが納税者の金を返済できる可能性は低くなる。
そしてさらに、政府が出資した企業に対して雇用契約の破棄を命じることができるとしたら、今後は誰も政府の出資企業で働こうとはしないだろう。つまり、政府が資金を注入したすべての銀行に悪影響が及ぶ。
真実
AIGのエピソードから、今回の金融危機とその対策について、次のような幾つかの真実が読み取れる。
1)政治的なプロセスでは巨額の数字はすべて同じに見える。ある水準を超えると、金額はただの記号になってしまう。国民は1730 億ドルと1億6500万ドルの違いが分からなくなる。金額が小額でも巨額の資金と同様の怒りを掻き立てることもある。むしろ、金額が大きいほど抽象的になり、無視するのが容易かもしれない。
2)金融危機の進展とともに、道徳観はグロテスクなほど単純化された。危機の始まりは混沌としている。ウォール街の金貸しも悪いが、借りた米国民も同じくらい悪い。何百万もの人間が借りるべきでなかった金を借りたわけだが、彼らはだまされたわけでも詐欺に遭ったわけでもなく、もの欲しさと貪欲からそうした。稼ぎに見合わないものを所有したいと望んだからだ。
しかし、税金が使われた途端に話は変わり、罪のない納税者が、ウォール街の悪徳金貸しに食い物にされているという構図ができあがった。ネバダ州の砂漠の真ん中に100万ドル級の家を買い、そのローンでデフォルトした男が突然、自分のデフォルトのせいで生じた問題の整理に追われていたAIG社員に支払われたボーナスに怒る市民になってしまう。
理解不可能
3)危機の根にある問題の複雑さが、政治がそれに知的に対処することを不可能にしている。物語が終わったとき、問題のボーナス1億6500万ドルについてはわれわれ全員が、最後の1セントまで詳細を知り尽くしその道徳性について確固たる見解を持つだろう。
一方、はるかに深刻な1730億ドルの支払いについては、永久に理解できないのではないか。そのほぼ8%に相当する130億ドルを受け取ったゴールドマンは、正当な支払いを受けたものだと公言してはばからない。さらに、AIGの破たんに備えたヘッジをしていたため、支払われなくても別に困らなかったとしている。
ということは、少なくとも1社の市場参加者は、格付け「AAA」のAIGがつぶれてもおかしくない行動を取っていることを知っていたわけだ。AIGは救済されるに値しなかったと言える。もう1つ分かるのは、ゴールドマンはAIGがつぶれても困らなかったということだ。従って、AIGを救済する必要もなかった。
危機の始まり以来、私はなぜ政府が問題の根、つまり「買うべきでなかった家を買うために金を借りた個人」のレベルで対処する意志と手段を持たないのかと不思議に思っていた。今は答えが分かったような気がする。非常に簡単なことだ。すぐ隣に住んでいる誰か、救済されるに値しない誰かに、少額の税金が与えられれば、国民はこれが理解でき、怒り狂うだろう。兆レベルの金を、結局何をやっているのか誰もいまだに理解できないあいまい模糊(もこ)とした企業に投げ与える方が、よっぽど無難だ。(マイケル・ルイス)
http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=infoseek_jp&sid=acRXZGaCZr6Y
こういう意見が出るだけ、アメリカの方が健全だと思う