反政府集会に乳母車部隊=堀山明子
ソウルの小じゃれたレストランでスパゲティを注文したら「そのメニューは牛肉が入っているので当面扱いません」と店員がわびた。最近の米国産牛肉輸入反対集会の盛り上がりを考慮したらしい。「だって韓国牛を使っていたでしょう?」と食い下がると、「お客様は牛肉というだけで敏感になっていて……」と言葉を濁す。要するに、注文がなく採算が取れないから、牛肉の仕入れをやめたという話だった。
米国産牛肉輸入反対集会は5月初め、10代の女子学生を中心に広がったが、その後、学校から参加しないよう厳しく指導され、激減した。代わりに注目を浴びたのは、乳母車に「李明博(イミョンバク)退陣!」のビラを張って登場したママさん部隊だ。5月末から数万人規模の集会が連日続く中、十数台の乳母車がデモの先頭に陣取り非暴力デモを演出するムードメーカーの役割を担っている。
週末に参加した主婦(32)は「大学時代にデモをしたことはないけど、食の安全は子供の将来にかかわるので初めて来た」と話す。「乳母車ごと参加」というアイデアはインターネットの育児サークルを通じて知り、見知らぬママ同士で隊列を組んでいるという。
夜な夜なソウル中心部の大通りがデモ隊で埋まり、機動隊に包囲される事態は、大統領直接選挙制導入を約束させた87年6月の民主化運動以来だ。ただ、当時と違って緊張感はない。
20代のデモ隊は軽快なリズムで「大韓民国は民主共和国だ」と憲法1条を歌い、機動隊員に「警察の皆様も一緒に」と敬語で呼びかける。30代はフォークを歌い、40代の元闘士は家族連れで当時の運動歌を披露。路上は世代対抗歌合戦の会場のようだ。
20年前のデモ隊は火炎瓶を握ったが、今の市民が握り締めるのは携帯電話だ。機動隊とにらみ合う最前線に行ってなぜか分かった。少しでも衝突が起きそうになると、市民は手を高く掲げ「動画で撮ってるぞ」とけん制。現場を生中継しているメディア名を連呼し、市民監視の圧力をかけていた。実際、女子大学生を足でけった機動隊員がネットに流れた動画を根拠に立件され警察庁は被害者家族に謝罪した。
李大統領は「集会の背後勢力を洗え」と指示したが、特定できなかった。ネットを通じた発信源は膨大にあるが、乳母車の動員指令をした政党や組織などないからだ。支持率10%台に急落した政府と勢いづくネット市民がどう対話できるのか。20年前には経験しなかった課題だ
http://mainichi.jp/select/opinion/horiyama/news/20080609dde018070003000c.html
私には子供を盾にしているように見えたけれど、物は言いようだねえ。