医療費のコスト削減策はこんなにある
後期高齢者医療保険制度が4月から始まり、少ない年金から保険料を天引きされたお年寄りたちの悲鳴が上がっている。
これまで健康保険組合に扶養家族として加入していた高齢者にとって、ゼロだった保険料がいきなり月平均6000円ほどになる。将来は、厚生労働省の試算でも月平均8000円、人によっては1万円になるだろうと言われている。
年金でぎりぎりの生活をしている高齢者にとって、この金額はあまりにも厳しいとわたしは思う。国民の大部分もそう思っているからこそ、政府・与党に対する反発はここまで高まっているわけだ。
政府・与党は「高齢化にともなって毎年1兆円も医療費が増大するのだから、みんなで支え合わないといけない。高齢者本人も負担しなければ制度がまわらない」と主張するが、対策は負担額を増やすことだけなのか。もっと別の解決法があるのではないか。
厚生労働省や政治家は、国民の負担を増やす前に、なぜ医療コストを削減する努力をしないのか。彼らはその点について一切触れようとしない。そして、国民に対して「高齢化が進むと医療費が増えるのが当然」だと信じ込ませようとしているのである。
医療費が増えているのに医療サービスが低下する矛盾
本題に入る前に、後期高齢者医療保険制度にともなう負担の問題について、もう少し詳しく説明しておこう。
負担が増えるのは高齢者だけと思っている人も多いかもしれないが(それはそれでもちろん大問題ではあるが)、一般のサラリーマンもまた、この制度で厳しい状況に置かれていることを知っておいてほしい。
健康保険組合連合会がまとめた2008年度予算の推計によると、健保組合全体の経常赤字が6322億円と、前年よりも3924億円も増えることが明らかになった。
その理由として、後期高齢者医療制度への支援金が1兆1256億円、前期高齢者医療制度への納付金が1兆501億円など、老人医療への拠出金が前年度よりも22%も増加して2兆8423億円となることが挙げられている。
そのため、健康保険組合連合会の調査に回答のあった1285の健保組合のうち、141の組合が保険料を引き上げるという。厳しい所得環境のなかで、サラリーマンの手取りがまた減るわけだ。高齢者だけでなく、現役世代の暮らしもさらに追い詰められることになりそうだ。
しかも、冒頭で述べたように毎年1兆円も医療費が増大するのだから、負担増はやむを得ないというのが政府・与党の立場である。
しかし、冷静になって考えてみると、これだけ毎年医療費が増えているにもかかわらず、医療の内容がよくなっていないのは不思議である。確かに先端医療の技術は進歩しているのかもしれないが、ごく一般の診療を見る限り、病院はどこも大混雑。さんざん待たされたあげく、5分しか診てもらえないというのが実情である。
支払いは増えているのにサービスが低下している。これはどう考えても納得できない。医療費増大の原因は本当に高齢化だけが原因なのか。医療のコスト構造自体も、じっくりと検討すべきときに来ているのではないだろうか。
医療コスト削減策を何も考えずに、ただ医療費を増やすだけという方法で対処していけば、遅かれ早かれ日本の医療制度はパンクすることは間違いない。
医師の数を増やして医療コストを削減せよ
なぜ、医療コストが下がらないのか。その理由は明らかである。需要が爆発的に増えているのに、供給を増やしていないからだ。高齢者が増えて患者は増大しているのに、医師の数が絶対的に足りない。
実際、この10年間の医師国家試験合格者数をみると、2001年の8374人を除いて、ずっと7000人台で推移している。医師の供給はまったく増えていないのだ。その最大の理由は、政府が医学部の定員を増やさないことにある。
では、なぜ医学部の定員を増やそうとしないのか。
ある政治家は、「医者の数がどんどん増えると、それに比例して医療費が増えてしまうからよくない」と述べている。だが、そんなことはありえない。供給が増えれば値段が下がるのは必然であり、国民が支払う医療費を抑えることができるはずだ。
また、厚生労働省によれば、高度な知識をともなう医療分野の人材を医学部で養成するためには大きなコストがかかり、人数を増やすことは容易ではないという。
だが、それなら、なんとか頭をひねって対策を考えるのが役人や政治家の務めだろう。医療制度の危機は待ったなしなのである。
例えば、こうしてみたらどうだろうか。建築士と同じように、医師の資格も1級と2級に分けて仕事を分担するのである。
確かに、先端医療の場合には、高度な知識や技術が必要なことはわかる。しかし、中高年やお年寄りに多い慢性疾患の場合は、さほど高度な医療判断が必要だとは思えない。極端なことを言えば、医者は話の聞き役にまわればよく、出す答えもほぼ決まりきったもののことが多い。もし、手に負えない症状であったり、急性疾患の疑いがあれば大病院にまわせばいい。
そこで重要になってくるのは、先端医療技術よりもコミュニケーション能力である。そうした技能の優れた人を養成して、2級医師にするわけだ。2級医師は4年制で卒業可能として、とりあえず大量に育成する。
最近の若者には、福祉の分野で働きたいという意欲を持つ人が多いから、人は集まるだろう。病院が彼らを年収300万円ほどで雇えば、若年層の失業対策にもなる。
病院としても、そうした2級医師を採用して「早い、安い」を売り物にすれば人気が出るだろう。高齢者にとっては、待ち時間が減って、話をじっくり聞いてくれるので喜ばしい。こうした医療機関が普及すれば全体の医療費を下げられる。みんなハッピーになるのではないか。
歯科医を医師にするアイデアが実現しない理由
医師の数を増やすもう一つの裏技がある。これは、ある医療経済学者の主張なのだが、歯科医に医療活動をさせるというものだ。
現在、医師と比べて歯科医は数が余っているのが実情だ。一部には夜逃げをする歯科医まであると聞く。
これを医師に転換するというアイデアである。歯科医は大学で6年間勉強しているから、医療についての知識は当然持ち合わせている。少なくとも、一般の医療活動ならば十分にできる。
なかでも麻酔ならばお手のものだ。病院での麻酔医の不足が大きな問題となっているなか、日常的に麻酔を使っている歯科医は貴重な存在である。麻酔医を増やすためのコストがほとんどかからないので、確実に医療費の削減につながる。
そして言うまでもなく、歯科医も消毒はするし手術もする。やっていることは医師と同じなのだ。耳鼻科医が医師であるのは、頭に近いデリケートな部分にかかわる医療をするからだろう。ならば、歯科医も医師であって悪いことはどこにもない。いますぐ、歯医者も医者をしていいという法律を定めれば、医師不足や医療コストの問題は解決するのだ。
歯科医を医師にせよという意見は、いままでにもあった。だが、残念ながら厚生労働省に門前払いにされ、検討さえされていない。その理由は見当がつく。日本医師会が自民党の有力な支援団体だからだろう。なんだかんだいっても、医師会は自分たちの利権を守ろうとしており、その意向に政府・与党は逆らうことができないのである。
もちろん、勤務医で劣悪な労働条件で働く医師もいるが、法外な報酬を得ている開業医も少なくない。そうした利権に切り込まなければ、医療費の抑制はありえない。それを実現するには、強力な政治家のリーダーシップが必要なのだが、残念ながらいまそれをやろうとする政治家は日本にはほとんどいない。
その結果、取りやすいところから金をとろうとして医療費が上がるわけだ。医療費を上げても、デモもストライキもやらないおとなしい国民だから、政治家にとってこんな楽なものはない。問題は、次の総選挙の一票で意思表示できるかどうかである。
http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/o/134/index.html
最初から最後まで酷すぎて、もはや何を突っ込めばいいのか分からない。
とりあえず年収300万のワーキングプアの医者を作ることが、誰にとっての幸せになるのか、森卓は説明すべきだ。