<早い話が>人情肉まん紙風船 金子秀敏
冷凍の肉まんを蒸して食べた。日本製である。一口かじると、ブタ肉とみじん切りの野菜を舌が感じ分けた。野菜が段ボールに思えてきた。
世界を震撼(しんかん)させた段ボール肉まんを地元中国では「紙皮包子(チーピーパオズ)」と呼ぶ。ショックは当分続く。韓国製キムチから回虫卵が検出されたのは2年前だが、いまだにスーパーのキムチには「国産白菜使用」のシールが張ってある。
中国のテレビ局は「段ボール肉まんを告発した番組はやらせだった」と発表し、関係者を処分した。
本当にやらせだったのか。番組で段ボール肉まんの製造現場とされた十字口村は、北京といっても市街地の外れにある。偽酒、偽たばこ、出稼ぎ労働者用の安弁当を作る作業場が密集している。違法な商売だが、業者と村役人が結託して、よそ者は立ち入れないような地域だという。
ここが舞台ではさもありなんと思う。しかし、隠し撮りした映像を見たときに不自然さを感じた。いくら村の中とはいえ、「水酸化ナトリウムで煮る」だの、「紙と肉は6対4で混ぜる」だの、業者が解説しすぎだ。
北京の道ばたで、屋台にカメラを向けたら殴りかかられたことがある。無許可営業を取り締まる工商局の役人と間違えたらしい。違法な業者は罰を恐れているから、部外者に違反の内容をしゃべったりしない。
やらせとすると、段ボール肉まんというアイデアは、どこから出てきたのか。中国では、でんぷんで作ったインチキ粉ミルク、防腐剤漬けの養殖魚、下水に廃棄された油で揚げた揚げパンなど、食の安全が深刻な問題であることは確かだ。
ただ、このところ、消費者物価の上昇が庶民生活を直撃している。とくに食料品の値上がりが激しい。そのなかでも肉、タマゴ、食用油の値上がりが目立つ。今年上半期で3割以上も高くなった。とりわけブタ肉の価格は、ブタの伝染病の流行が重なって、去年の2~4倍にも跳ね上がった。
ブタ肉に対する庶民の関心が高い、だから肉まんの餡(あん)を段ボールで代用させるというやらせ番組を思いついたのだろう。
いまや国内総生産(GDP)の規模では世界第3位の勢いだが、インフレが庶民生活を脅かしている。89年の天安門事件が起きる前も、中国人は激しいインフレに苦しんでいた。段ボール肉まん騒ぎは、中国の乱世を告げる警鐘ではないのか。(専門編集委員)
汚染食品は日常ではあっても、それに対する不満は相当の模様。