国連の政治力学 [著]北岡伸一
冷静な視点と日本関与への熱い思い
国連に対しては、「世界平和を願う人たちの集まり」という普遍的理想主義と「無力で役に立たない」というシニシズムの両方の見方がある。しかし、東京大教授から転出して国連代表部次席大使を務めた著者は、国連の現実と日本の国益を見据えて、そのどちらの議論も排すことになる。
まず国連は天使の集まりではなく、国連そのものが加盟国の意向によって動かされる国際政治の場となっていることを指摘する。何故(なぜ)なら、国連の最大の目的が「世界の平和と安全の維持」であるのにもかかわらず、国連自身は独自の軍隊を持っていない。このため、加盟国の軍隊に頼らざるを得ない上に、資金についても加盟国の分担金に頼らざるを得ないからである。
そして、国連によるPKO(平和維持活動)派遣を決定するのが安全保障理事会であり、そこで大きな決定権を持っているのが五つの常任理事国である。しかし、日本は米国に次ぐ2番目の分担金を拠出しているのにもかかわらず、安全保障理事会の常任理事国でないために、なかなか重要な決定に対して影響力を行使することが難しい。
このため、2年前には日本の常任理事国入りを含む安保理改革G4共同提案を提出し、著者を含む日本の国連代表部が既得権を手放したくない常任理事国に対して立ち向かって行った。
いっぽう、「常任理事国入りして何になるのか?」と醒(さ)めた見方もある。確かに日本は極めて重要な事柄で米国と違う選択肢を選ぶことは難しい。だが、そもそも、常任理事国入りを主張すること自体が米国を含む既存の常任理事国への挑戦であり、選択肢は所与のものではなく、常任理事国として自ら選択肢の作成に参加できる意味は大きいことも指摘している。
一流の学者にして一流の外交官でもある著者だからこそ書ける冷静に現実をみるリアリストの視点と、冷戦後の世界秩序の維持について大きな義務と権利を日本が持ち、その鍵が冷戦後の世界で急速に役割を増大させている国連であるという熱い思いが、行間から溢(あふ)れ出てくる。http://book.asahi.com/review/TKY200706190418.html
そもそも国連自体が本当に平和を愛しているのか、それ自体が疑問だったり。
国連の政治力学―日本はどこにいるのか