一下級将校の見た帝国陸軍
山本七平
http://www.amazon.co.jp/%E4%B8%80%E4%B8%8B%E7%B4%9A%E5%B0%86%E6%A0%A1%E3%81%AE%E8%A6%8B%E3%81%9F%E5%B8%9D%E5%9B%BD%E9%99%B8%E8%BB%8D-%E5%B1%B1%E6%9C%AC-%E4%B8%83%E5%B9%B3/dp/4167306050/sr=8-1/qid=1168504972/ref=sr_1_1/250-5367539-8510620?ie=UTF8&s=books
この本については書きたい事がありすぎて纏まらず、なかなか紹介できずにいた。
だが、このまま放置しては、いつまでたっても紹介出来ないので、とりあえず思うままに書いて見よう。
戦争体験物は数あるものの、これは間違いなくお薦め出来る一冊だ。
何が良いって、筆者の冷め具合。
本人曰く「OL」感覚で軍に入ったそうで、熱い思い入れとかお国の為といった感情は無い。
戦争末期に徴兵され、成り行きで幹候を志願してみたら、思いがけず合格してしまったといういい加減さ。
だからこそ厳しい戦況でも冷静に対処し、自分と部下を生かして帰す事が出来たと思う。
とにかく、最初から最後までこの本には感情的な部分や、お涙頂戴的な表現は無く、旧日本軍の抱えていた問題を、下級将校の立場から冷静に分析し指摘している。
彼の指摘した旧日本軍の問題点は面白い。
それは決して軍だけに起こった特殊な問題で無く、「ある!ある!ある!!」と思うような事ばかり。
逆に言えば、それは解決法もあったという事だ。
例えば。
「ネットの全能感」
これの怖さを知っている人も居ると思う。
最初にちょっと上手く行ってアクセスが増えると、「自分には何でも出来るんだ!」と思い込んでしまう。
周囲ももてはやすものだから、うっかり自分は凄い事が出来るんだ信じ込む。
それで自分の能力を超えた事を「出来る」と言ってしまったり、実際の成果よりも大きく言ってしまったり。
本人の言葉しか情報が無いわけだから、「こいつは出来る奴なんだ。凄い能力を持っているんだ。」と周りの人は信じて、大きな期待を寄せていく。
キャラを作っていたりすると、特にこの状態に陥りやすい。
キッコなんかがこれだよね。
実体の無い本人像。出来るはずの無いことを要求する周囲。
周囲の期待に答えようと辻褄合わせの事を言い、ありもしない戦果が得られたと信じて沸き立つ人々。
華麗なる戦術によって得られたとされる華々しい戦果の実体は、実はグダグダのどうしようもない戦況で、しかしそれを知らない人々は更なる戦果を要求する。要求はどんどん現実と剥離していき、辻褄を合わせるためにどんどん嘘が重ねられていく。ただでさえ現場を知らない実体を知らない人々の要求は現実と剥離しがちなのに、更に拍車がかかっていく。
結果、報告だけはご立派で実体の無い軍が出来上がり。
転がりつづける空虚な組織は自分では止まる事もできず、周囲を巻き込みながら自滅への道を進んでいく。
こういった事態にならないよう企業なんかでは、ネガティブチェックをしたり外部からの意見を取り入れたりして対策している所もあるが、内部で馴れ合っていたりすると方向転換も難しい。内向きの視点しかもてず、現実から目を逸らし、思考停止していると、ある日会社が終わっていたりして。
思考停止に至る過程も、悲しくばかばかしい。
虚構の組織を自転させ、ある時突然「情勢が変化」したとして、原則から踏みはずす。
散々してはいけないとしてきた原則を転換するわけだから、思考停止せざる得ない。
しかし突然の「情勢の変化」はあるのだろうか?
現実には急に状況が転回するものではない。
転回したのは状況に対する気持ちの方。
では、それまでの言葉は虚構だったのか?
そこで筆者は言う。
多くの団体も政党もマスコミも、平和憲法は絶対守れと教えかつ言い続けている。だが、私は過去の経験から、また「精神力への遠慮」に等しきある対象への遠慮からみて、その言葉を、それが声高であればあるほど信用しない。一番声高に叫んでいたものが、何やら、”客観的情勢の変化”とかで、突然クルッと変わって、自分の主張を平然と自分で否定する。それが起こらない保証はどこにもない。それでよいのか。そのとき「それならば何をかいわんや。よく了解した」と言って、かつてわれわれのように黙って「地獄の行進」をはじめるつもりか 方向が右であれ左であれ。その覚悟ができているなら、この問題はそのまま放置しておいてよい。憲法だけは例外などということは、ありえないから。
はい、当たってます。
私は9条教の皆さんが、ミサイルの一つも打ち込まれていきなり方向転換、なんて事態が一番怖い。国防の事を何も考えず、頭から否定して考えるのを拒否。そういう現状が一番怖い。
冷静でいられる、考える余裕がある今、議論しないでどうするんだろう。
この本は歴史を知るという意味だけでなく、今を生きる参考として、皆さんにもぜひ読んで貰いたいと思います。