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【安倍政権考】「安倍らしさ」半開の妙 「21世紀という新しい時代にふさわしい憲法を、自分たちの手でつくるべきだ。憲法改正を政治日程にのせるべく政治的指導力を発揮すると決心した」 安倍晋三首相は10月31日、英紙「フィナンシャル・タイムズ」のインタビューに答え、自らの任期中に憲法改正を目指す考えを明言した。戦後の歴代首相で、初めてのことだった。 首相は憲法を含め、連合国軍総司令部(GHQ)が日本社会に張り巡らした「戦後レジーム(体制)」からの脱却を掲げている。ただ、そうした目標を達成するためには、何より時間が必要となってくる。 同じインタビューの中で、首相は「自民党総裁としての自分の任期は3年で、総裁としては2期までしか務められない」とも語っている。これは、まさに2期6年の長期政権(小泉政権は5年5カ月)を狙うと言っているのに等しい。首相は明らかに、長期政権を見据えている。 ■まずは足固め 現在、歴史認識などをめぐる「安倍らしさ」を半ば封印したような首相の言動に対し、物足りなさや失望感を表明する保守系の言論人は少なくない。例えば、漫画家の小林よしのり氏は雑誌「SAPIO」に掲載された最新の「ゴー宣・暫」の中で、首相について「まさか朝日新聞に全面降伏するような『変節』をするとは思いもしなかった」と書いている。 しかし、首相自身は「それは仕方がない。今は着々と力をつけ、じわじわと切り崩していくしかない」と周囲に漏らしている。「首相が就任していきなり『村山談話』や『河野談話』を正面から否定したら、まだ左派・リベラルが多い与党状況からみて政権は倒れていた」(政府筋)との見方もある。 来年は、安倍政権の浮沈を決定づける参院選も控えており、森喜朗元首相は「私は安倍氏に『やりたいことは半分にしとけ。まずは参院選に勝つことだ』と言っているし、安倍氏も分かっている」と指摘する。 つまり、首相は「変節」したわけではなく、政治情勢を冷静に見極め、現実的に振る舞っているにすぎないのだろう。自民党内外の政敵たちに比べ52歳と若い首相には、時間が味方しているともいえる。 ■小泉前首相も忍耐 首相と10年も前から拉致事件について話し合ってきたという無所属議員は、台湾の李登輝元総統の言葉を引いて、首相の姿勢に理解を示す。 「李さんは著書『台湾の主張』の中で、『政治家が心しなくてはならないのは、問題に直面したとき決して直線で考えないことだ。必ず迂回(うかい)すること、むしろ回り道を見つけだそうと務めるべき』と書いている。安倍氏もそれでいい」 また、国民の高い支持を背景に反対派の抵抗をねじ伏せ、構造改革路線を突き進んだイメージが強く、「織田信長」に擬せられた小泉純一郎前首相ですら、最初から何でも自由にできたわけではない。昨年8月の郵政選挙の最中、小泉氏は繰り返し次のように演説していた。 「耐え難きを耐えて、(反対派の)外堀をうずめて、内堀を埋めて、ようやくここまで来たから解散した」 小泉氏にとって郵政解散は、就任以来4年4カ月の周到な準備を経た上での「勝算のある勝負」(森派幹部)だった。一方、安倍首相が目指す憲法改正は、郵政民営化とは比較にならない歴史的な大事業だ。 政治評論家の屋山太郎氏は「小泉氏は道路公団民営化や郵政民営化はやったが、スピリチュアル(精神的)なものは何も手をつけなかった。安倍首相は、より難しいスピリチュアルな教育基本法改正や憲法改正をやろうとしている。これはすり足で慎重に、手順を踏んで進むことが必要だ」と指摘する。 ■朝日に同調はない それでは、小林氏が「朝日新聞に全面降伏」と書いた点はどうなのか。10月30日夜、首相が東京・大手町のレストランで産経新聞、読売新聞など報道7社幹部と会食した際に、こんなエピソードがあったという。 会食が終わり、席を立とうとした首相に、出席していた朝日新聞の幹部が「ちょっと待ってください。(持論を十分展開できず)悔しくはありませんか」と皮肉な口調で問いかけた。 これに対し、首相は、いわゆるA級戦犯について国内法では犯罪者ではないと明言した首相は自分が初めてであること、河野談話についても強制連行は否定したことなどを説明し、こう言い放ったとされる。 「心配されなくても、私が朝日の論調に同調することはありませんから」 首相の1本勝ちといえよう。 (阿比留瑠比) http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/politics/politicsit/27821/