在韓被爆者訴訟:「うすっぺらな判決だ」在外被爆者支援に足止め--地裁判決 /広島
◇支援者ら批判、落胆の声
「在外被爆者の心情を理解しようとしない、まったく血の通っていない判決」。海外からの被爆者健康手帳交付申請を巡り、原告の訴えを全面的に退けた26日の広島地裁判決。ここ数年で進展していた在外被爆者支援を足止めするような判決に、原告の支援者からは落胆の声が漏れた。
判決は「手帳の交付は健康管理手当などの支給の前提となる重要な手続きであり、申請を国内に限定することは、手当の申請とは異なって一定の合理性がある」と指摘、国と県の責任は認めなかった。判決後、中区の広島弁護士会館で会見した在間秀和弁護士は「原告の訴えに真摯(しんし)に耳を傾けようとしないうすっぺらな判決だ」と批判した。
この日は、原告の李相〓さん(83)の長男、李蓬熙さん(57)=京畿道平沢市=も傍聴。昨年9月に脳内出血の後遺症で動けない父を背負って来日、手帳を取得したことについて「父は強制連行されて被爆した。余命少ない父に再度来日させる日本政府のやり方は、もう一度強制連行するようなものでひどい」と抗議した。
「韓国の原爆被害者を救援する市民の会」の市場淳子会長(50)=大阪府=は「判決は、高齢の被爆者の苦労には一言も触れていない。これまで命と引き替えに裁判を戦ってきた被爆者の努力は何だったのか」と落胆した。また同会広島支部の豊永恵三郎・支部長は「手帳申請の窓口である八者協議会が、海外からの申請を認めるよう国に要望したのに、司法が認めないのはおかしい。在外被爆者を想定していない時代に作られた法律を、現在に適用するのも問題だ」と話した。
また判決は、健康管理手当の支給申請の却下処分に対する慰謝料を求めた別の在韓被爆者、朱昌輪さん(昨年7月に死亡)の訴えも、「国と広島市に過失はなかった」として棄却した。在間弁護士は「違法な行政で苦しんだ人々に責任をとるのは当然なのに、判決は在外被爆者の苦労を一顧だにしていない。こんな判決を確定させてはならない」と話した。【田中博子、大沢瑞季】
◇在ブラジル原爆被爆者協会の森田隆会長(82)の話
いい判決を期待していただけに残念。在ブラジル被爆者の平均年齢は74歳で、体力的にも日本で手帳を取得することが厳しいという現実を裁判所は見てほしかった。今回の判決であきらめず、今後も国などに制度改正を求め続けたい。
◇田村和之・龍谷大法科大学院教授(行政法)の話
面接しなくても、り災証明書などで被爆事実を確認できる人もいる。国内の被爆者でも面接して聞き取りができない人がおり、国外の申請だけ面接が必要というのは説得力がない。在外公館や自治体の職員が現地に調査に行けばすむはずで、面接できないからといって在外被爆者を排除するのはよくない。
◇片山賢治・県被爆者・毒ガス障害者対策室長の話
判決の詳細な内容についてはまだ承知していないが、県の主張が認められたものと考えている。今後とも、原爆被爆者援護策が円滑に実施されるよう努める。
◇秋葉忠利・広島市長の話
市の主張が認められたものと考え、今後も適正な事務執行に務めたい。被爆者の高齢化が進む中で、被爆者の皆様が豊かな余生を過ごせるように援護施策の充実に努力したい。
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◇判決骨子(敬称略)
1原告李関係
処分取り消しを求める訴えについて、原告が申請の後に長崎市長から被爆者健康手帳の交付を受けたのであるから、訴えの利益がない。損害賠償請求については、被爆者健康手帳の交付申請は、健康管理手当の認定申請などと異なり、居住地又は現在地の知事に申請しなければならない旨が被爆者援護法で規定されており、かつ、同規定については一定の合理性があるから、交付申請却下処分は違法ではない。
2原告朱関係
損害賠償について、改正前の被爆者援護法施行規則52条は、被爆者が健康管理手当の認定申請をするには日本国内に居住又は現在することを要する旨を定めていた点で、法の文言や趣旨に照らし、法の委任の範囲を逸脱した違法無効なものであるけれども、当時そのように判断した裁判例は1例あるのみであり、これについても控訴審で審理中であったことや、被爆者の地位は国外に移住しても失われないと判断した裁判例でも、健康管理手当の認定申請については日本に居住又は現在することを要する旨を判示していたことなどからすれば、厚労相などが、同規則52条を改正しなかったことについて過失があったとまでは言えない。広島市長は、同規則52条に従って健康管理手当の認定事務を行わなければならず、これに反して在外被爆者からの認定申請を受理することは、法令上許されないことであった。従って、広島市長に過失があったとは言えない。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060927-00000245-mailo-l34
>在外被爆者を想定していない時代に作られた法律を、現在に適用するのも問題
日本は法治国家ですから!
やるなら法律を変えるよう働きかけろよ。