緯度経度 今なお近くて遠い日本観 ソウル=黒田勝弘
韓国では漢方が盛んで、普通の人も日常的によく漢方の知識を披露する。食べ物の選択や体質についても漢方的な話をよくする。みんなよく漢方医に通うし、漢方薬をよく飲んでいる。ただ韓国では近年、民族主義的な観点から「漢方」とはいわず、ハングルで発音が同じことから「韓方(ハンバン)」といっている。
その”韓方”の考え方に「陰陽」という二次元的宇宙観があって、そこから人間の体質を「太陽人」「小陽人」「太陰人」「小陰人」に分け、その体質に合う飲食物や治療法で病を治す体質学というのがある。
漢方医に行くと、あらゆる食材を「陰陽」による体質区分にしたがって合う、合わないに分類した一覧表をくれる。体質と食べ物がうまく合わないと治る病気も治らないというわけだ。こんな漢方的な話も食べ物や体質ならまだいいが、それが韓国では政治や外交にまで出てくるから面白い。
たとえば竹島・独島問題で日韓外交摩擦が起きると、政治学者のこんな論評が一流新聞に出る。
「日本人の多くは典型的な”小陰人”の性格を持っている。島に住んできたため他の体質との摩擦で体質を整えるヒマがなかったからだ。小陰人は外柔内剛型の知恵者としての位階感覚、数理感覚、技巧に富んでおり、自分の物はちゃんと確保する実質派だ。
伝統と権威(力)を崇拝する半面、欲が深くて融通に欠け、横暴わがままなお天気屋で、猟奇的かつ残虐である」(朝鮮日報四月二十五日付、黄台淵・東国大教授の「時論」)
そのため強者に弱く弱者に強い”小陰人”の日本人は、自国が弱く相手が強い時には他国に従うが、逆の状況では他国を挑発する。最近、景気回復で調子よくなった日本が、靖国神社参拝や「独島」でしきりに韓国を挑発しているのも”小陰人”のお天気屋体質と関係がある-。
そこで「国力の推移と景気変動を繊細に反映させる日本の挑発パターンは実に小陰人的」だから、そんな日本の挑発に勝つには「国家元首が”雀を撃つのに大砲を使う”みたいな無意味な大声外交」ではなく、日本を追い抜く経済成長と韓流ブームの拡大だというのが結論だった。
日本人を”小陰人の国”といって溜飲を下げると同時に、結局は「韓国が力をつけることだ」というかねてからの”自強・克日”論で事態収拾を図るといういつものパターンだ。ところが数日後、新聞に主婦からの投書が出ていた。夫婦ともども「(韓方の)思想体質学」で”小陰人”といわれているのだが、あの論評だと自分たちも「卑劣な性格の日本人と同じ」になってしまう、韓国にも多くの”小陰人”がいるのだから”小陰人”に対するあんな非難、罵倒は困るというのだ。
学者先生より読者の方がまともである。
韓国では反日ムードが高まると日本非難のため思い思いの日本論が登場する。
次は竹島への日本の関心の背景を解説したある大学教授の論評だ。
「日本にとって独島(竹島)は大陸進出の橋頭堡だ。島国日本は地政学的位置から孤立に対する恐怖感が常に存在し、一年中地震で揺れている国土に対するコンプレックスは、他国の領土に対する限りない野望となってあらわれる」(韓国日報四月二十七日付、時論から)
韓国人は中国大陸を背負っているせいか、自分たちは半島であるにもかかわらず昔から”島国日本”といってバカにする。そうか、日本人は地震が怖いから地震の無い韓国など他国の領土にあこがれているのか。いろいろ教えられる?
次は韓国マスコミ界の最高のコラムニストである「金永煕・中央日報国際問題大記者」の論評(四月二十八日付)だ。知人なので若干、紹介にためらいがあるが、見出しに「日本外交三人組の血統が語る」「コイズム・アベ・アソウ…みんな大陸侵略中心人物の子孫たち」「”国家主義遺伝子”の研究が必要」とあるように、現在の日本の指導者たちは先祖が悪いからその遺伝子のせいで反韓的な外交をやっているというのだ。
うーん、やはり韓国らしい血縁的発想か。
小泉首相の父は戦時中の翼賛会議員で戦後、公職追放の経歴があり、安倍官房長官の外祖父は元戦犯の故岸信介首相で、麻生外相は戦時中、韓国人労働者をたくさん使った九州の石炭会社・麻生炭坑の一族だからというわけだ。論評は「彼らは精神的、道義的に先代を超えるのに必要な世界観や知性、国際感覚を備えた人物ではない」と断定している。
だから今後の対日外交では彼らに対する「歴史心理学的研究」が必要というのが結論だが、ぼくらにはこんな発想をする韓国知識人に対する「歴史心理学的研究」が切に必要に思われる。
ソース:産経新聞(東京版)5月27日14版7面(国際面)
相変わらずよく見てるなあと思うけれど、だからどうしなさいと、とも。