6カ国協議折衝中 DNA結果
官邸VS.外務省綱引き 穏便策に不信、安倍氏発表
北朝鮮に拉致された横田めぐみさんの夫が拉致韓国人と事実上特定したDNA鑑定は、北朝鮮の犯罪行為を国際社会にも印象付けた。東京で北朝鮮の核問題をめぐる六カ国協議のメンバーによる非公式折衝が繰り広げられた十一日に鑑定結果が発表された舞台裏では、首相官邸と外務省の激しい綱引きがあった。
「DNA鑑定結果が出たという情報があるが、本当なのか」
十一日午前十一時ごろ、行政改革特別委員会に出席していた安倍晋三官房長官の指示を受けた担当者が外務省幹部に問い合わせたところ、「まだです」と口ごもった。
政府内では鑑定結果の発表を「十一日以降」(鈴木政二官房副長官)とする方向で打ち合わせていた。大阪医科大学などが同日までに外務省に正式報告する日程が既に確定していたからだ。
外務省の対応をいぶかった別の関係者が警察当局に確認したところ、「けさ、拉致韓国人とほぼ断定したようですが、外務省からの連絡はまだなんですか」と逆に聞かれた。
そのやりとりの最中に民放が速報でDNA鑑定の結果を伝えた。直後に外務省は鑑定結果を官邸に持ち込んだが、安倍氏は周辺に「こっちが問い合わせなかったら、いつまでも隠すつもりだったんじゃないか」と不信感をあらわにした。
外務省は、安倍氏側に「午後にこの文面を記者クラブに張り出します」とわずか三行の文言を示した。しかも北朝鮮と韓国には同文章をFAX送信すると説明した。
安倍氏は顔をこわばらせ、こう指示した。
「そんな対応をしたら、政府は北朝鮮におもねったと思われるだけじゃないか。私が午後に記者会見で発表する。外務省には、日朝協議の冒頭で必ず北朝鮮側に提示するように言っておいてくれ」
鑑定結果発表の反響は大きかった。ヒル米国務次官補は十二日、記者団に「拉致はひどい問題。それを日本国民が非常に強く感じているのは正当で、理解できる」と述べた。北朝鮮の金桂寛外務次官は十二日に六本木ヒルズを視察する予定だったが、取りやめた。
外務省が十一日中の発表に後ろ向きだったのは、鑑定結果の発表が、北朝鮮を刺激し、六カ国協議再開の障害になりかねないと懸念したためとみられる。中国の武大偉外務次官も「もう少し時期をずらせばいいではないか」と語った。
東京で六カ国協議再開の道筋をつけたかった外務省のショックは大きく、十二日夜、金次官との会談を終え外務省に戻った佐々江賢一郎アジア大洋州局長は、力なく「北酒場」を口ずさんだ。
ソース:産経新聞(東京版)平成18年4月13日14版3面(総合面)
つまり、外務省としては中国のご機嫌を取りたかったのね。