中国メディア規制:もはや不可能、意識改革迫られる
戦前の日本の二の舞を避けるために―本間俊典(週刊エコノミスト編集委員)
第10期全国人民代表大会(全人代)第4回会議で温家宝・首相が公表した第11次5カ年規画(「十一五」、2006-2010年)案をみると、平均7.5%の成長率目標など、持続可能な経済発展で社会の安定を図ろうとする基本姿勢がみえてくる。それ自体はわかりやすいが、先進諸国が注目している政治改革への言及がなかった点がひっかかる。「調和社会」の実現には、国民が自由に意思表示できる民主主義が不可欠だからだ。
経済の発展は、必然的に政治体制や国民生活の自由化を促す。なぜなら、改革開放は情報の開放も伴うからだ。とりわけ、現代の中国では携帯電話やインターネットを通じて国際情報も豊富に入っており、かつての共産党独裁時代のような情報統制はもはや不可能な環境になっている。社会主義のドミノ崩壊をもたらしたソ連・東欧革命の原動力が通信網だった事実を引くまでもない。
この1月、中国外交部の高官が日本のメディアについて「中国のマイナス面ばかり書く。日本政府はもっと指導すべきだ」(1月11日毎日新聞)と発言したが、こうした認識を改めない限り、中国が先進国の仲間入りをすることはむずかしいであろう。
今も忘れられない場面がある。1989年の天安門事件の直後、私は日本側マスコミの一員として訪中し、故鄧小平氏との共同記者会見に臨んだ。ところが、会見後にカメラ撮影をしようとしたところ、警備の警察官2人が縄を張って立ちはだかり、我々を追い立てるようにして寄せ付けなかった。気のせいか「シッ、シッ」といっているように聞こえ、とても不愉快だったが、現地記者は「中国ではこれが普通」と意に介さなかった。
中国政府には、こうした感覚がいまだに残っているのだろうか。日本をはじめとするマスメディアも完全無欠ではない。とくに日本では、このところ「反中もの」の書籍が大量に発行され、なかにはナショナリズムを煽るだけのものもある。
しかし、重要なことは「反中もの」と同じように、「親中もの」「中立もの」もたくさん出版されており、国民はどれも自由に手にできるという点だ。読者は両方を読み比べて、どれが事実でどれがプロパガンダかをかぎ分け、自分の考えを構築していく。この自由こそ、敗戦国日本が得た貴重な財産の一つなのである。
このところ、中国政府は米グーグル、ヤフーなどへの検閲、中国青年報の週刊誌「氷点」の編集長解任など、メディア規制を強めている。05年春の反日暴動でネット規制に成功した党中央宣伝部が動いている。泣く子も黙る強い権限を持つとされるが、その中央宣伝部にさえ批判の声が上がる時代になった。
明らかに流れは変わりつつある。言論を権力で押さえつけることは、もはや不可能になったと考えるべきだ。なによりも、言論の自由を失った戦前の日本が中国に対して何をしたか、振り返ってみる必要があるだろう。中国政府の「歴史認識」が問われている。(執筆者:週刊エコノミスト編集委員 本間俊典)
【執筆者】
本間 俊典(ほんま としのり)
週刊エコノミスト編集委員
1949年新潟県生まれ。1972年一橋大学経済学部卒業後、金融機関勤務を経て1975年毎日新聞社入社。経済部、週刊エコノミスト編集部、デジタルメディア編集部などを経て2004年10月からエコノミスト編集部編集委員。中国別冊号の編集長を務めた
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2006&d=0310&f=column_0310_001.shtml
戦前の日本は、マスコミが必要以上に煽っていたのですが?