インフラ輸出、日本は本当に負けたのか
原子力発電プラントや高速鉄道といった社会インフラを主に新興国へ輸出しようという動きが活発化している。特にこの1年あまりは、世界中の大型プロジェクトがメディアを通じて紹介され、その中で日本企業連合がどのような立ち位置にあるかが盛んに報じられている感がある。
さてその報道だが、日本企業連合が受注を獲得すれば“勝ち”、他国の企業に奪われれば“負け”と伝えられるのが大概のパターン。しかし、受注競争の最前線にいる当事者の受け止め方が、この世間の評価と正反対というケースが少なからずある。
破格の超長期保証で受注した韓国
韓国企業連合が受注したアラブ首長国連邦(UAE)での原子力発電所プロジェクトはその1つ。2009年末に実施された入札では日本、フランス、韓国の企業連合が参加、日仏の一騎打ちという下馬評をよそに韓国企業連合が落札した。これをきっかけに、官民が連携してインフラ輸出を図らなければならないという国内世論が急速に高まった。日本勢にとってはいわくつきの案件だ。
「UAEの原発プロジェクト入札前後で韓国勢の様子が違う」と日本の原発関係者は言う。トルコが黒海沿岸のシノプで建設を予定している原発プロジェクトは当初、韓国企業連合が受注するべく交渉が進められていたが暗礁に乗り上げた。その後、トルコ政府は交渉相手を「オールジャパン」に切り替えた。
さらに韓国勢はヨルダンで予定されている原発プロジェクトへの参加も断念。「UAEを取った時の勢いがない」(同)。
UAEプロジェクトの入札価格は日仏の各320億ドルに対し、韓国勢は200億ドルだったと言われる。1兆円近い安値を提案したことに加え、60年間にわたって原発の運転を保証するという条件が韓国勢落札の決め手になったと言われる。だが、ここにきて「破格の条件を提示し過ぎたとの思いから、トルコやヨルダンでは慎重な姿勢を保つようにしているのではないか」と大手プラントメーカー幹部は分析する。
原発関係者が「特に破格」というのが60年間という運転保証だ。原発の実用炉を世界で初めて完成させたのは1954年の旧ソ連と言われる。もっとも現在、世界の主流である軽水炉型原発となるとやや時代が下り、加圧水型(PWR)は1957年、沸騰水型(BWR)は1960年がそれぞれ運転開始の年。ちなみに日本は1963年に茨城県東海村で発電したのが最初だ。
つまり世界中の原発で60年間運転し続けたプラントはない。その後の技術の進展を勘案したとしても、60年という保証期間中に原発プラントを更新する可能性すらあるわけで、冷静に考えれば韓国勢はUAEにかなり思い切った長期保証を約束してしまったと言える。
「UAEでは確かに韓国勢が受注した。しかし破格の条件だったこと、その後のトルコやヨルダンでは日本勢が交渉を有利に進めていることを考えると、『UAEで日本勢は負けた』と言われるのはどうも納得が出来ない。総合的に見れば勝っているのではないか」(電力会社幹部)
その後、ロシア勢に受注を奪われた第1期ベトナム原発プロジェクトでも、同じような声が聞こえてくる。ロシアは第1期プロジェクト受注にあたり、ベトナムに対して安全保障面での協力と約束したと言われる。それがロシア勢受注の決め手だったとすれば、「日本勢は原発そのものの競争で敗れたわけではなく、正直言って負けたという感覚を持ち合わせていない」というプラントメーカー幹部の声も負け惜しみではないだろう。
ことほど左様にインフラ輸出に関して、世間でいう「勝ち負け」と当事者の「勝ち負け」は違う。
用地買収まで負わされて…
高速鉄道分野でも同じような現象が起きている。リオデジャネイロ五輪が開催される2016年の開通を目指すブラジル高速鉄道プロジェクト(TAV)。リオデジャネイロ州―サンパウロ州間510kmを1時間半で結ぶ総事業費1兆6000億円のプロジェクトは当初、韓国企業連合の落札が確実視されていた。
ところが昨年末に実施予定だった入札が今春に延期。そこで「日本企業連合も逆転受注に一縷の望みが出てきた」との声が上がるが、入札を検討している当の日本企業連合の関係者は「入札に参加しないことが“勝ち”なのかもしれない」と冷めた口調で語る。
日本企業連合が二の足を踏む理由は主に2つある。1つは1km当たり0.49レアル(約24円)の上限運賃で40年間の運営を求められていること。もう 1つは高速鉄道路線を敷く土地の買収は受注した企業連合が責任を持つことが求められているためだ。「運賃に上限が設けられ、なおかつ40年間も運営責任を取らされて採算なんて取れるはずがない」(車両メーカー幹部)。
用地買収には、より辛らつな批判が上がる。ビルなどの建造物を建てる建築工事に比べ土木工事は何が起きるか分からないため、大きなリスクがある。そのリスクはプロジェクトを計画している国自身が負うのが普通だが、ブラジル高速鉄道計画は、受注者が負うよう求めている。
「ブラジル政府は今回のプロジェクトをパブリック・プライベート・パートナーシップ(PPP)と言うが、パブリックがほとんど負担をしないPPP」と大手商社幹部は言う。「こんな悪条件でも入札に意欲を示す韓国企業連合の真意がどこにあるのか。むしろそちらに興味がある」(同)。
社会インフラ整備は、新興国で需要が高まっている。それを取り込もうとする企業は、各国とタフな交渉を強いられ、足元を見られ、厳しい条件提示を受けることが多い。受注しても採算が取れない可能性もあり、プロジェクト獲得が本当に“勝ち”と言えるかは、短期で答えが出るものではない。プロジェクトの当事者にはそんな思いがある。だからこそ世間の評判とは逆の評価を下すことがある。
無論、当事者の判断がすべて正しいというわけではない。しかし、その行方を見守る立場として、世界中で膨れ上がるインフラ需要を日本企業連合が取り込んだ、あるいは奪われたと一喜一憂する姿勢は改めるべき時期に来ているのではないか。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20110207/218330/
諸外国からしたら、韓国を当て馬にして日本から格安で最新技術を、のつもりだったけど、韓国が受注しちゃって涙目みたいな?