戦略的な対中外交を年のはじめに考える
今年の日中関係は昨秋の首脳会談で合意した「戦略的互恵関係」の真価が問われます。関係後退の恐れもありますが、かじ取り次第で新たな時代が開けるでしょう。
「日中」と言えば「友好」。両国関係は長く「友好」が合言葉になってきました。これは戦後、断絶した関係の回復を働き掛けた民間の友好運動に始まりました。
両国政府が関係を正常化した「日中共同声明」(一九七二年)でも「善隣友好」が掲げられ、その後の「平和友好条約」(七八年)や「共同宣言」(九八年)も「友好」をうたいあげました。
隣国同士の摩擦は自然
「友好」は過去、戦火を交えた両国が不戦の願いを託した言葉でした。しかし、「友好」感情を傷つけることを恐れるあまり互いに言いたいことも言わず我慢するきらいがありました。また「友好」に背くと見なす言動を「非友好的」と決め付ける排他的な一面も否定できません。
中国は急速な発展を遂げ、総合的な国力は日本に勝るとも劣りません。隣り合う大国の間に矛盾や摩擦が生まれ、時に丁々発止のやりとりになるのは、むしろ自然です。交流が拡大し、互いの実情を知るにつれ「友好」というきれいごとで片付かない深刻なギャップが両国の間に横たわることもわかってきました。
「友好」は日中関係を象徴する言葉としては歴史的な役割を終えたのかもしれません。昨年十月、安倍晋三首相の公式訪中で両国が合意した「共同プレス発表」では、日中関係は「友好」に代わり「戦略的互恵関係」と表現されました。これは、一体、何を意味するのでしょうか。
日中には大きな共通利益があります。日本にとって中国との貿易総額は今では、米国との貿易総額を上回っています。日米の密接な経済関係を表し「米国がくしゃみをすれば日本はかぜをひく」といわれた時代がありましたが、同様に密接な経済関係が日中間にもできてきました。
言うべきことは言う
北朝鮮の核実験に対しては日本も中国も反対しています。朝鮮半島から核兵器をなくすことは両国の脅威を除くことになります。戦略的互恵関係とは、このような両国に共通する利益を最大限にするため協力しあうことにほかなりません。
しかし、そのためには互いに言うべきことを言っていく姿勢が欠かせません。中国は台湾統一をにらんで米国の軍隊を引き付ける北朝鮮の役割を評価し、大量の支援を行い北朝鮮の体制を支えています。中国が自らの利益のため核開発への圧力をためらうなら、日本は米国とともに中国が北朝鮮に対する影響力を発揮するよう迫る必要があります。
また、中国自身、急速な経済成長の一方で、毎年二けた台の国防費の伸びを続けています。台湾に対する平和統一を強調しながらも、台湾に向けミサイルの配備を増強しています。中国が国家目標にしている台湾統一に武力を使う誘惑に負ければ、中台はもちろん東アジア地域の平和と繁栄は根本から脅かされます。
日本は日米同盟の強化にとどまらず、隣国として中国にあくまで平和的に台湾問題を解決するよう働き掛けることが必要です。ただ、これは何も中国に対する軍事的対決を強めることではありません。
中国は、都市が空前の繁栄を享受する一方、農村は振るわず貧富の差は拡大し続けています。医療や老後などの保障も普及しておらず多くの民衆が経済発展の成果に浴していません。不満は時に排外的な行動に転化して噴き出すことがあります。
日本は経済成長の一方、社会福祉を広げ格差を縮小した経験を持っています。対外強硬論の温床になりかねない極端な格差の是正に向け協力すれば政権が穏健な内外政策を取ることを助けることにつながります。
また、環境やエネルギー問題で日中は一面では運命共同体です。中国が現在のように資源やエネルギーをがぶのみする粗放的な経済発展を続けることは中国の資源あさりの衝動を強めるだけでなく、世界の資源枯渇を招きかねません。
日本が培ってきた省エネ技術は中国から待ち望まれています。隣国の環境対策に協力することは大気や海洋など直接、日本の周辺環境を改善することになります。日本は資源、エネルギー問題で中国が脅威とならないよう手を打つべきです。
付き合いやすい隣人に
このように、戦略的互恵関係とは日本が、中国がより開かれ周辺国と調和し、付き合いやすい隣人となるよう働き掛けることでもあります。
こうした関係の前提になるのが歴史の古傷を刺激したり、両国民衆の感情を逆なでしたりする行為をお互いに慎むことにほかなりません。
今年は国交正常化三十五周年。また日中戦争の発端になった盧溝橋事件七十年でもあります。どちらの記念行事が中国で盛り上がることになるか。それは今後、日本側の中国と向き合う姿勢が、大きく左右するでしょう。
http://www.chunichi.co.jp/00/sha/20070109/col_____sha_____000.shtml
中国を付き合いやすい隣人に、なんて真面目に言えるところがスゴイよ、中日新聞は。