【金子勝の天下の逆襲】2006年8月8日 掲載
昭和天皇の心と小泉首相の心
小泉首相は相変わらず靖国参拝を「心の問題だ」と強弁する。そして、A級戦犯の合祀(ごうし)の問題には口をつぐむ。
首相の参拝を批判する声に対しては、それを突き詰めていくと、「中国が反対しているから靖国参拝はやめた方がいい、中国の嫌がることはしない方がいいということになる」の一点張りだ。
だが、ちょっと待て。だったら聞くが、昭和天皇が靖国参拝を中止したのも、中国が反対したことが理由だったのか。違うだろう。
日本経済新聞(7月20日付)は、A級戦犯の合祀に対して不快感を持ったため昭和天皇が参拝を中止したのだと報じた。いわゆる「富田メモ」によれば、昭和天皇は「それが私の心だ」と語ったという。
いまや靖国参拝を支持してきた保守派は、「昭和天皇の心」と「小泉首相の心」のどちらをとるのかを問われている。一部の右派は「昭和天皇はA級戦犯14人を合祀したことに不快感を持ったのではない」、名指しをした「松岡、白鳥の2人にだけ不快感を持っていた」と主張する。彼らには国語能力がないようだ。富田メモには「或る時に、A級(戦犯)が合祀され、その上、松岡、白取(原文ママ)までもが」と記されている。それとも何か。昭和天皇はA級戦犯14人、全員の名前を挙げる必要があったとでも言いたいのだろうか。
これまで彼らは、極東裁判を見直してA級戦犯を免罪しろと主張してきた。しかし、最近次々発掘されている米国占領文書によれば、戦勝国=米国は天皇を平和のシンボルとして利用するために、戦争責任をA級戦犯に帰して天皇を免罪した。彼らは、再び天皇の戦争責任問題を蒸し返したいのだろうか?
話を元に戻そう。小泉首相の靖国参拝を支持する者たちは、まだ「反対しているのは中国と韓国だけだ」と言っている。ならば、ニューヨーク・タイムズの社説「指導者たちの心の中」(7月22日付)を紹介しよう。
社説は「天皇が戦争犯罪を犯したことはほぼ確実だったが、戦後の切迫した事態のためにそれは無視された」と述べた上で、「自称改革者であり、国際的リーダー、そしてエルビスのファンよりも、天皇の心の内に正しいことをする余地を秘めていた」と書いている。
これが国際常識というものだろう。
ところが、安倍晋三官房長官も4月に靖国参拝をしていたことが分かった。次期首相候補も国際的な非常識――この国は何て悲しい国なんだろう。
http://gendai.net/?m=view&g=syakai&c=020&no=27709
>靖国参拝を支持してきた保守派は、「昭和天皇の心」と「小泉首相の心」のどちらをとるのかを問われている。
私は自分の心しか取りませんが。